2011/11/12

2011年 11月 07日
戦略的な日本の通商交渉とはーセピアの実現にあり!

アルルの男・ヒロシです。

突如、降って湧いたようなTPP交渉への参加を拙速 にすすめるべきではない。日本はすでにASEAN諸国との緩やかなFTAを発効させている。また足踏み状態が続いている韓国と中国とのFTA交渉もあり、 ASEAN+6というべき「CEPEA:Comprehensive Economic Partnership in East Asia」もある。こちらにはインドも入っている。



TPPに途中から交渉参加して不利な条件で交渉参加するよりも、むしろ、緒に付いているCEPEAの交渉を地道に進めることが日本の国益になる。こちらがある程度成果が付いてきた段階でまとまってTPPと交渉することも十分あってもいい。

現政権は戦略もなくいたずらにアメリカ主導のTPPという「急行列車」に急いで飛び乗ろうとしている。しかし、アジアでは他にも準急列車が走っている。そちらの列車の乗客である日本の強みを活かすべき時ではないのか。

中途半端な戦略の変更は国家の100年の計を誤るとしかいいようがない。

<参考>

TPP とアジア自由貿易協定構想の関係
―最終的にはAPEC の自由貿易協定へ

ア ジアでは自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結が相次ぎ、東アジア全体をカバーするFTA も検討されている。しかし、最近注目を集めているのは「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP:Trans Pacific Partnership)」である。TPP とは、そもそもはシンガポール・チリ・ブルネイ・ニューギニアのアジア太平洋地域4 カ国(原加盟国)が締結したFTA で、「関税をほぼ例外なく撤廃」する厳しい取り決めとなっている。米国のほか、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5 カ国が追加加盟を表明し、原加盟国との交渉がスタートしている。現在、さらに参加を検討している主な国に、日本、カナダ、メキシコ、韓国がある。

こ れは実質的には米国とのFTA であり、日本が参加できないと関税が残り、貿易面で不利益を被ることになる。しかし、参加を表明してもすんなり加盟できるわけではなく、参加を表明したう えで関係9 カ国すべてから交渉参加の同意を取り付ける必要がある。交渉に加わり参加できれば、わが国の他の自由貿易協定交渉(経済連携協定)が一気に進むことも予想 される。

ほかにもさまざまな構想が走っている。まず、ASEAN+3(日本・中国・韓国)をベースとするのが「東アジア自由貿易地域 (EAFTA:East Asia FTA)構想」である。2005 年に中国からの提案を受け、専門家による研究会が開催された。主として「中国・韓国」が推している。

それに対し、日本政府はASEAN+6(3+豪州・ニュージーランド・インド)による「東アジア包括的経済連携(CEPEA:Comprehensive Economic Partnership in East Asia)構想」を推している。

2006 年経済産業省の「グローバル経済戦略」において提唱され、専門家による研究会が実施された。2009 年にEAFTA とCEPEA 共に、民間研究を終え政府間の議論開始を合意。日本政府は2010
年ASEAN+6 経済大臣会合において、ASEAN+6 での経済統合を進める日本提案「イニシャル・ステップス」を提出している。

今 年11 月には日本においてアジア太平洋経済協力会議(APEC:Asia-Pacific Economic Corporation)が開催されたが、APEC の将来像を「共同体」とした。そこで、ヒトやモノの移動を円滑にする「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP:Free Trade Area of Asia Pacific)」の実現が首脳宣言にも織り込まれた。もともと緩やかな協力関係を築くAPEC だけに共同体構想で欧州連合(EU)のような強い拘束力を目指すわけではないが、APEC の将来像を共同体と表現することで、域内の経済連携を促し加盟国・地域が一体となって成長することを念頭においている。 このFTAAP(APEC)の対応として、EAFTA(ASEAN+3)、CEPEA(ASEAN+6)、そしてTPP の3 つの仕組みを活用して議論を進めるということが確認されている。

# by japanhandlers2005 | 2011-11-07 13:44 | Trackback | Comments(0)
2011年 11月 05日
TPPの最大の問題点は「拙速」にありー急いてはイニシアチブを取れない



アルルの男・ヒロシです。

 本日11月5日は午後から有楽町駅前で「TPPを考える国民会議」(宇沢弘文代表)という団体が主催するTPP反対集会に出かけてきました。

  集会にはTPP反対派の国会議員である、民主党の山田正彦前農水大臣、小林興起衆議院議員、首藤信彦衆議院議員、自民党の山田俊男参院議員、新党日本の田 中康夫衆議院議員らが参加。著名人では国民経済学派の経済史学者である中野剛志・京都大学准教授(経産官僚)、孫崎享氏、宮台真司氏らの知識人も参加。

 有楽町駅周辺は、農業団体のノボリから右翼民族派の日の丸まではためく。田中康夫氏が言っておられたが、「TPPへの拙速な交渉参加は右派、左派のイデオロギーを問わずに重要な問題」ということだと私も思う。
 
  このTPPに関しては私もだいぶ前から著書の『日本再占領』やブログなどで「アメリカの太平洋地域の取り込み・囲い込み戦略」だと指摘してきた。アメリカ が太平洋経済圏を視野に入れていたのは戦前からのことであり、太平洋問題調査会(IPR)などの金融エリートと知的エリートの結社もホノルルを拠点にした アジア太平洋コミュニティのアメリカ主導での実現を戦前から模索してきた(戦前に日本の政府が行った金解禁のムードを作ったのもこのIPRの京都会議だった。この会議は1929年のウォール街大暴落に前後して開催されており、アメリカ財界の狙いは明らかだった。この金解禁によって日本国外に金地金が流出した)。

  アメリカが覇権国として「は」、衰退しつつある今、最後のチャンスということでアメリカ主導の太平洋を横断する経済圏を構築し、中国を牽制する、然る後 に、中国市場への圧力を掛けるというのがTPP交渉の戦略的な狙い。そのためには、米国のパワーの源である、多国籍企業の進出を助け、経済圏構築と米国の 覇権回復を行おうというわけだ。

 TPPに関しては、アメリカが従来、東南アジアなど4カ国で行なっていた自由貿易圏のP4の構想に途中から参入するという、「イニシアチブ」を確保することが重要であった。そのTPPに参加することはアメリカの戦略に乗ることでもある。

  しかも、十分に議論した上で交渉参加するというのであればまだしも、今月12日のハワイでのAPECに間に合わせるべく、無理矢理に論点整理を急いで行 なって、アメリカの歓心を買うために交渉参加を表明するというスケジュールを野田政権は描いていた。このことは毎日新聞によって明らかになった。民主党の プロジェクトチームでの内部文書を作成していた、藤末健三参議院議員(あまり地頭がよさそうにない元通産官僚)が毎日に内容が漏れたことの責任をとって PTの職を辞任している。



(貼り付け開始)

民主TPP事務局次長が辞任
11月1日 0時50分 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111101/t10013640901000.html

 TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉参加の是非を検討する民主党の作業チームで、事務局次長を務める藤末健三参議院議員は、みずからが作成した交渉に参加した場合の利点などを記した文書が外部に流出した責任を取りたいとして、事務局次長を辞任しました。

  これは、作業チームの座長を務める鉢呂前経済産業大臣らが、先月31日に開かれた総会などで明らかにしたものです。それによりますと、作業チームの事務局 次長を務める藤末参議院議員は、党内論議の参考にするため、TPP交渉に参加した場合の利点などを記した文書を作成しましたが、この文書が一部の報道機関 に政府の内部文書として報じられました。これを受けて藤末氏は、意見集約に向けて党内論議が微妙な時期を迎えるなか、混乱を招いた責任を取りたいとして、 事務局次長を辞任したいと申し出て、先月31日の作業チームの役員会で了承されました。民主党内では、TPPの交渉参加の是非を巡って、意見対立が激しさ を増しており、藤末氏の文書問題で交渉参加に慎重な議員がさらに反発を強めることも予想されます。

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TPP:政府のTPPに関する内部文書(要旨)

 ▽11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で交渉参加表明すべき理由

・米国がAPECで政権浮揚につながる大きな成果を表明するのは難しい。日本が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎するタイミングがなくなる
・交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される

・11月までに交渉参加を表明できなければ、交渉参加に関心なしとみなされ、重要情報の入手が困難になる
・韓国が近々TPP交渉に参加する可能性。先に交渉メンバーとなった韓国は日本の参加を認めない可能性すらある

 ▽11月に交渉参加を決断できない場合

・マスメディア、経済界はTPP交渉参加を提案。実現できなければ新聞の見出しは「新政権、やはり何も決断できず」という言葉が躍る可能性が極めて大きい。経済界の政権への失望感が高くなる
・政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は事実上、TPP交渉参加を前提としている。見送れば外務、経済産業両省は農業再生に非協力になる
・EU(欧州連合)から足元を見られ、注文ばかり付けられる。中国にも高いレベルの自由化を要求できず、中韓FTA(自由貿易協定)だけ進む可能性もある

 ▽選挙との関係

・衆院解散がなければ13年夏まで国政選挙はない。大きな選挙がないタイミングで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない。交渉参加を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる

 ▽落としどころ

・実際の交渉参加は12年3月以降。「交渉参加すべきでない」との結論に至れば、参加を取り消せば良い。(取り消しは民主)党が提言し、政府は「重く受け止める」とすべきだ
・参加表明の際には「TPP交渉の最大の受益者は農業」としっかり言うべきだ。交渉参加は農業強化策に政府が明確にコミットすることの表明。予算も付けていくことになる

毎日新聞 2011年10月28日 東京朝刊  
(貼りつけ終わり)

 このような交渉参加への強い意欲は何も日本政府だけの意向ではない。前回見たように、アメリカのCSISの報告書でも日本のTPP交渉参加を促している。また、日米経済協議会でもTPPと震災復興を強く結びつけた提言を行なっている。

(貼り付け開始)

 TPP参加で震災復興促進を 日米経済協議会が共同声明
産経ニュース 2011.7.29 18:21

  日米経済協議会は29日、震災復興を進めるため日本に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の早期参加を求める共同声明を日米同時に発表した。日本が TPP交渉に参加すれば、市場が開かれていることを示すシグナルになり、震災の風評被害を払拭(ふっしょく)でき、中長期的には国内の投資や事業が拡大し 雇用拡大にも役立つとしている。

 声明は遅くとも今年11月にハワイで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)までに参加を表明すべきだとした。同時に米国企業が日本に参入しやすくなるよう、特区の創設を急ぐべきだと求めている。

 同協議会は毎年日本と米国で交互に開かれている日米財界人会議の事務局で、日本側から約80、米国側から約30の団体・企業が参加している。共同声明の発表は極めて異例。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110729/biz11072918230025-n1.htm
(貼りつけ終わり) 

 この他、最近GIGAZINEというニュース・メディアがアメリカの貿易ロビー団体(NATIONAL FOREIGN TRADE COUNCIL)の情報を掲載している。アメリカはオバマ大統領が貿易を倍増にすることを明言して大統領選挙を戦っている。

  TPPの所管であるUSTR(米通商代表部)にも、アメリカの貿易にとってTPPを始めとする自由貿易政策がいかに有効であるかが解説されている。アメリ カのメディアは金融関連、外交安保関連のニュースを中心に報じてTPPには関心がないと言われているが、時々、アメリカの主要なシンクタンクの研究員たち がTPPを推進せよという論説を寄稿している。例えば、アメリカの有力な経済シンクタンクであるIIE(国際経済研究所)もドル安と輸出増大をテコに米国 経済回復を主張している。

 以下のGIGAZINEの記事は必読である。オバマ政権の国家経済会議であるスパーリング議長に、米国貿易ロビー団体である全国貿易協議会の所属企業が提出した提言書が掲載されている。そこには、USTRも同じく関心を持っている、「市場アクセス」、「知的所有権」、「直接投資」、「貿易手順の簡素化」、「規制調和(一致)」、「競争政策」といった項目での要求が掲げられている。つまり政府機関であるUSTRと全国貿易協議会が国家ぐるみでTPPを推進してきたということだ。メディアが報じていないのは国内がそれどころではないからで、水面下で着々と進んでいるというのが正しい見方だろう。

2011年11月04日 22時16分03秒
アメリカで「TPP」を推進して米政府を操る黒幕たちの正体
http://gigazine.net/news/20111104_tpp_mastermind/


  TPP交渉に関して民主党の藤末議員らが作成した内部文書には「交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加できない。出来上 がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される」という項目があるが、この「APECまでに交渉参加すればルール作りに参加できる」 というのも疑わしいことがメディア報道でわかってきた。

 (貼り付け開始)

TPP:米との事前協議必要 藤村官房長官、交渉で認識
毎日新聞:2011年11月3日

  藤村修官房長官は2日の記者会見で、日本が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への交渉参加を表明した場合も、実際の参加までには米国政府との事前協 議が必要になるとの認識を示した。事前協議後には約90日かかる米国議会の手続きがあり、藤村氏は実際の交渉参加には「90日プラスアルファ。そのアル ファは未知数」と語った。

 交渉参加には、参加9カ国の承認が必要。承認手続きは各国それぞれだが、米国の場合、議会の承認が必要だ。米政府が米議会に説明するため、日米両政府で事前協議が求められるものとみられる。

  日米の事前協議に時間がかかれば日本がTPPのルール作りに参加できる時間がなくなるとの懸念に対して、藤村氏は「(9カ国の)先日の事前交渉で、もう1 年(かかる)という見通しが立てられた。来年も5回ぐらい参加国会議が行われる。終わってから(日本の交渉参加が認められる)という話にはならない」と否 定した。【小山由宇】
http://mainichi.jp/select/biz/news/20111103ddm008020032000c.html
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官房長官 事前協議内容は米が検討
11月4日 12時52分

 藤村官房長官は閣議のあとの記者会見で、日本がTPP=環太平洋パートナーシップ協定への交渉参加を表明した場合に行われる、アメリカ政府とアメリカ議会との事前協議について、具体的な協議内容は、アメリカ側が検討する立場にあるという認識を示しました。

TPPへの交渉に参加するためには、現在交渉中の9カ国の了承を得る必要があり、このうちアメリカについては、政府と議会が連絡を取り合う事前協議を行ったうえで、議会の承認が必要となります。藤 村官房長官は記者会見で、日本がTPPへの交渉参加を表明した場合の事前協議の内容について「アメリカ政府や議会のことであって、われわれがどういう内容 かということを想定することではない」と述べ、アメリカ政府や議会側が検討する立場にあるという認識を示しました。一方、鹿野農林水産大臣は閣議のあとの 記者会見で「いろいろな分野が関わってくる可能性があり、生活そのものにも影響する。そういう意味では、できるだけ情報を開示していくべきだ」と述べ、ア メリカ政府や議会の動きについて、情報を積極的に開示する必要があるという認識を示しました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111104/t10013730251000.html
(貼りつけ終わり)

  このような「米国政府との事前協議」という問題がある。つまり「協議に参加できるかを米国が承認する」というハードルがある。すでにTPPに関しては9カ 国による交渉が何度も行われている。最終合意にはあと1年かかるということが上の記事には書かれている。交渉が進んでいる協議に途中参加していくわけだか ら、当然ながら対等な条件ではありえない。

 しかも米国はUSTRや貿易ロビー団体を始めとして明確な戦略目標、獲得目標を持っている。 そうなると、週末に急いで論点整理を行う民主党政権よりも相当に有利な立ち位置にあるわけだ。アメリカは数年前の初期の段階でTPPに加わることによって 「イニシアチブ」を得た。日本はその不利な条件な中での交渉を強いられる。アメリカが、うまい具合に事前協議の段階ではねつけてくれれば助かるが、そう甘い話ではなく、知日派のジャパン・ロビーと連携しながら、米財界の戦略目標実現のために日本を引きずり込むだろう。アメリカ国内の知日派たちは日本の受け皿となる国会議員や官僚たちとの「人脈」を駆使し、巧みになだめすかして、騙していくに違いないのだ。この世の中、騙される方が悪いのだ。

 アメリカの議会関係者がTPP交渉において、農業製品の関税だけではなく、もっと幅広い要求を掲げていることは、今朝の東京新聞にも出ている。

(貼り付け開始)

TPP内部文書 米「保険も交渉テーマ」 議会関係者
東京新聞:2011年11月5日 朝刊

 環 太平洋連携協定(TPP)交渉について通商問題を担当する米議会関係者が、日本の参加には「保険などの非関税障壁(関税以外の市場参入規制)が重要な問題 となる」と述べていたことが政府の内部文書で分かった。米議会関係者は、日本郵政グループのかんぽ生命保険が販売する簡易保険や共済などの規制改革も交渉 テーマにすべきだ、との見解を示したとみられる。

 政府は与党・民主党に対しては、簡易保険などがテーマとなる可能性に触れつつ も「現在の九カ国間の交渉では議論の対象外」との説明にとどめていた。明らかになった米議会関係者の発言は、日本がTPP交渉に参加すれば保険分野だけで なく、幅広い分野での規制改革がテーマに加わる可能性が高いことを示した内容。今後は情報開示が不十分なまま政府がTPP参加の議論を進めることへの批判 が強まりそうだ。

 内部文書によると、米議会関係者は、日本の参加には米国が以前から求めている関税以外の規制改革が重要と明言。「牛肉などの農産物だけでなく、保険などの分野で米国の懸念に対処すれば、交渉参加への支持が増す」と述べている。

 米政府は一九九〇年代以降、自国企業の日本市場参入を後押しするため「年次改革要望書」「経済調和対話」などの形で、日本に対して多岐にわたる要求を突きつけてきた。

 米通商代表部(USTR)が今年三月に公表した他国の非関税障壁に関する報告書も、簡易保険や共済が保護されているとの立場から「日本政府は開放的で競争的な市場を促進」すべきだと指摘。この点を米政府の「高い優先事項」と表現している。

 規制に守られている簡保や共済には、民間の保険会社より契約者に有利な条件の商品もある。簡保や共済の関係者には規制改革で、資金力がある米国企業などに顧客が奪われることを懸念する見方もある。

 米政府は簡保などと同様、残留農薬といった食品安全基準、電気通信、法曹、医療、教育、公共事業などでも日本の過剰な規制を指摘している。

 内部文書は交渉内容などに関する情報収集に当たる外務省職員らが今秋、交渉中の九カ国の担当者から聞き取った内容をまとめた。

(貼りつけ終わり)

 このような内部事情は、これまでの日米構造協議、年次改革要望書、そして菅政権になって復活した「要望書」というべき「日米経済調和対話」やUSTRの対日非関税障壁リストなどをみれば、それは容易に予想されることである。これはかなり複雑な交渉になる。

 なぜなら、TPP交渉そのものは「多国間協議」だが、事前協議は「二国間」だ。多国間だから二国間よりも日本はやりやすいという意見もある。しかし、どういう抜け穴があるか分からない。ここで過大な条件を要求された場合、日本政府には「引き返す勇気」があるのか。

 日経新聞を中心とするマスコミと財界が一斉に「ここで引くとは何事だ。日本は鎖国するのか」というキャンペーンを行うだろうが、それでも退くことができるのか。

 大人の知恵としては「急いては事を仕損じる」ということである。さらに言えば、民主党政権ではすでにそのような拙速により大きな政策での失敗をした経験がある。それは言うまでもなく普天間交渉である。

  たかが海兵隊の一基地の移転交渉のやり直しだけで内閣が崩壊した。普天間交渉は鳩山政権崩壊の後、米国の有力な議会関係者からも「嘉手納基地統合案」や 「辺野古移設は不可能であるから日米政府は交渉をやり直せ」という声が出てきている。辺野古移設案をゴリ押ししたのは自民党政権時代から、知日派として日 米交渉を取り仕切ってきた米国の国務省や国防総省の外交官僚たちであり、日本の外務省の北米局官僚たちである。それはすべて私の『日本再占領』にも書いた し、ウィキリークスの外交公電にも書かれている。

 普天間交渉は日本側のミスの連続だった。まず、政権交代直前に、アメリカ側が鳩山の雑誌・新聞への寄稿を「反米」だと一方的に騒ぐことで、交渉問題を重大な政策課題に仕立て上げることで、イニシアチブを取った。先に交渉相手にイニシアチブを取られたことに「失敗の本質」がある。

  政権交代後まもなくということもあり、新政権側に十分な交渉体制が整っていなかった。そればかりではなく、前原誠司などのアメリカべったりの政治家たち が、アメリカ大使館と内通して、移設交渉をつぶしに掛かっていた。だから、鳩山政権での混乱は一気に加速された。鳩山自身の責任もあるが、鳩山と対立した 前原誠司らの方の罪が重大である。

 このような米国側と内通する政治家の存在をたどると、やはり中曽根康弘政権にまで遡れる。それまでは アメリカとの協調と言っても、従属的なものではなかった。吉田茂のような主体的にアメリカとの連携を選びとった政治家もいた。ところが、田中角栄がロッ キード事件でやられてしまって以後、アメリカに対して楯突くことはタブーになった。

 そして、政治家の方も「アメリカの外圧」を頼みにするようになった。今日の有楽町の演説会では宮台真司氏が、かつて中曽根のブレーンだった佐藤誠三郎教授とのエピソードを披露していた。これが非常に興味深い。




 



佐藤誠三郎は「この国を変えようと思えば、アメリカに外圧をかけてもらえばいい。アメリカが日本の政治を合理的にしてくれるんだ」と言ったという。
宮 台教授はずっとそれが頭に残っていたそうだ。そして、今回、TPPの賛成派の議員たちが、同じように「アメリカの外圧待ち」の発言をしていたのを聞いたと きに、宮台教授はTPP反対派に回ることを決意した。日本の政治をアメリカが合理的にするというのはアメリカの合理性を日本に適用するということである。 それが九〇年代の日本で起こった「合理的選択革命」だった。要するにアメリカが日本をコントロールしやすいように合理性の傾向・選好を作り変えるというこ とだった。

 雑誌『レヴァイアサン』などに集まっていた、加藤寛の弟子筋に当たる公共選択学者は、表向きの記述モデル(過去の状況を説明 する)としての合理的選択論という「顕教」のあり方以外に、アメリカの戦略ツールというそのような「密教」(裏の顔)があったことを知っているはずであ る。合理的選択も、それと対立する側の文化人類学もどちらも覇権国の支配者にとっては権力のためのツールに過ぎなかった。これをチャルマーズ・ジョンソン 教授がかつて、米雑誌「ナショナル・インタレスト」で明らかにした。

 「イニシアチブ」と「合理的選択」。これがアメリカの戦略の重要な 部分である。まず、自らが戦略構想を発表するなどしてイニシアチブを取り、その戦略実現のための合理性に基づいて、ソフトパワーによる宣伝を行う。これが アメリカの強みであり、日本にとっての弱みでもある。そのような状況があって、今になって吉良州司(きらしゅうじ)のような「日本が主権を主張するのは五 〇年速い」などというおかしな政治家が出てくる。




 そういう戦略的な蓄積があるアメリカに対して日本が「誠意」で交渉に望んでも勝てるわけがない。

  中野剛志准教授は、今年は小村寿太郎外相が関税自主権(=国家主権)を回復してからちょうど百年であると話していた。関税撤廃は関税自由化とは違う。金融 政策が可能なのは金利の上げ下げが可能だからである。同じように関税政策もいたずらに撤廃するのではなく、関税の自由化があるからこそ経済状況に応じて上 げ下げができる。できるだけ、大恐慌時代の高関税政策の帰結を考えれば関税が低いのが望ましいのはいうまでもないことだが、一律に撤廃することには慎重さ が求められる。

 野田首相のカンヌでの消費税と総選挙の発言も問題がある。これについては明日書きたい。 

日本再占領 ―「消えた統治能力」と「第三の敗戦」―

中田 安彦 / 成甲書房



日本政治の経済学―政権政党の合理的選択

J.M. ラムザイヤー / 弘文堂

# by japanhandlers2005 | 2011-11-05 20:58 | Trackback(1) | Comments(0)
2011年 11月 04日
CSISのトモダチ作戦報告書のサマリーを読む。



 「衣の下に鎧が見える」という評価がまさにふさわしい。美辞麗句に彩られているが、このCSIS・経団連の調査報告は「ショックドクトリン」そのもの。震災復興と日米同盟強化をリンクさせる狙いがある。日米同盟屋が経済分野に進出してきた。。

  CSISの報告書を見ていると、震災後の山口組の活動を連想させる。一方で、災害救援・炊き出しをやりつつ、別の部隊がしっかりと現地調査をやってビジネ ス提携、食い込みを行う。米軍も山口組も暴力組織であるから、本質は同じなのだろう。戦後の日本は米国が山口組を利用して支配したこともある。

  CSIS報告では「日本の将来は日本が選ぶべき」としているが、そもそもこの報告書は経団連との共同作業。経団連はアメリカの方しか見ていない特殊な経済 団体。小沢一郎が「第二経団連」をつくろうした理由もそこにある。CSIS報告書の議長は、現役のボーイングのCEOのマクナニー。
調査団の米国側議長は現ボーイングCEOのジム・マクナニー、他にロッキードのクバシクCOOも参加。他に英国軍需産業Qinteq北米支社のクラウチ、米日ビジネス評議会のファザリー、アフラックのチャールズ・レイクなど米国の東北進出狙う企業の面々。

  アーミテージ本人とその部下のサコダ、ボーイングの国際政府担当の副社長ロスも参加、普天間問題で沖縄の味方のふりだけをした、CFRのシーラ・スミスも 恥じらいもなく参加している。オブザーバーにはカート・キャンベルとブレジンスキー。そして、米国のAPEC担当のカート・トン。調査団の狙いはTPP推 進にある。CSIS報告書のワーキンググループには、GEの関係者が3人も。米商工会議所も3人。他に医薬品会社のメルク、保険会社のアフラック、ビル& メリンダ・ゲイツ財団など。震災復興需要にありつきましょうというタスクフォースであることが明確である。

 要旨では4つの基本認 識。(1)世界は国際システムにインパクトを与える力強い日本を待望する(2)日本人が自らの手で復興への道を選び取り、復興への指導力は日本国内からも たらされる(※わざわざ?)(3)トモダチ作戦は日米の財・軍・NGOの絆を再確認した。そのような路線を深化する必要があるとしている。(4)復興の営 みは、今後の日本経済の発展と活性化、それから日本の国際社会における役割とは切り離して考えられない。自然災害で打ちひしがれている政治指導者が、以前 への復旧だけではなく、新しい試みに乗り出すことは難しいことは理解するが、競争力と経済成長が必要であると。

以下各論。

  <災害対応力と復興>の項では、米国のカトリーナの例を出してその経験を生かせると指摘。提案は復興庁の本部を東北に置くことなど。災害復興のノウハウを 蓄積するべきだという指摘。米国財界の関心は(2)<経済復興>の項目から先にある。カトリーナのあとは、行き過ぎた民営化が横行したなどの問題点が指摘 されており、これが米国のリベラル派のジャーナリストのナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』に結実している。そのような災害便乗型の資本主義の匂 いがこの報告書からもしてくる。

 さて、その(2)<経済復興>。日本の東北地方における技術・経済活力、とりわけ強力な科学的研究機 構・基盤が、復旧後の持続的経済成長を促すとし、長期戦略には以下を列挙⇒安定エネ供給、税制改革(法人税)、規制緩和、貿易自由化。特に経済特区 (SEZ)の重要性を指摘。TPP思惑が各論で展開されている。

 ここまでのまとめとして、私の分析は震災によって生じた復興需要を米国 財界としては経団連と提携して(他の国々よりも)先に取り込んでゆきたいということである。研究基盤を活用し、日米企業研究により、R&Dのコス トをダウンという狙いがあるようだ。その先にあるは中国に対する産業基盤を日本でアメリカ企業が築くことによる中国に対するけん制の意味がある。

  (3)<エネルギー戦略>の項目では、原発の安全確保と再稼働の問題に触れると共に、エネルギーミックスの問題として、LNGの調達の必要性を論じてい る。日米二国で原子力安全の協議会を設立するという提案がある。サマリーだけでは詳しくはわからない。詳細を読む必要あり。

 (4)<健 康と復興>では、医療記録の電子化などを提案。また低放射線の健康被害に関する日米の独立調査パネルを設立する。穿った見方をすれば、福島での健康調査の 結果の重要な部分を先に米だけで囲い込むという風にも見えなくもない。医学的知見の利用に関して日本が不利にならないようにすることが必要だろう。後述す るようにここが今回の報告書のキモとなっているようだ。

 (5)<日米同盟への教訓>平時における震災復興という共同作戦での教訓を、よ り複雑化した日本や日本周辺での安全保障活動での共同作戦に活かすべきである、としている。いつの間にか集団的自衛権が前提になってしまっているのが気に かかる。(6)<市民社会>では、草の根のNGO協力関係を作ることが必要だとして締めくくっている。

 その他に各論。イントロダクショ ンではわざわざ「外圧がこの日本の重要な岐路の選択のさいに加わることはない」として「日本は自らの手で未来を選択する」と書いてある。外圧にならないよ うにジャパン・ハンドラーズのカウンターパートを使ってやらせる。実質的にはコントロールや様々な圧力が働いているという話だろう。ちなみにこの報告書に は「China」という言葉は二箇所にしか出てこない。きわめてアンバランスな報告書である。

 さらに、第4部のヘルスケアの部分。まるでこりゃGE横河メディカルの営業活動のような提言書である。前半は福島原発の放射能の健康影響の共同研究。これも「先取特権」狙いだろう。
第 2部の経済編の「通商政策」もTPP関連で重要か。「日本市場がアジア太平洋諸国とは不連続になっていると考える日本と欧米企業が増えている。だが、円高 は単一で決定的な要因ではない。日本に拠点を置き、輸出をすることの魅力は、日本がTPP交渉や他の通商交渉(日本の参加する二国間貿易協定)に参加する ことで増大される。」としている。日本国内でTPPに関する議論が進んでいることは歓迎すべきであるとはっきりと書かれている。

 経済復 興に関する要旨。マクロ経済に関する項目。「民間主導の復興」。まあこれは良い。が、次に来るのが「法人税を減税し、財政圧力を軽減するために消費税率を 段階的調整(増税)。その政策ができていく中で、個人所得税と住民税の率の低減も考慮されるべし」とあるわけだ。財界の提言書だけにまずは法人税減税と消 費増税、そして余力があれば所得税・住民税も検討すればいいという含みを持つスタンスである。まずは法人税の議論と消費税の増税議論をすることを優先すべ きだというスタンスである。これがそのまま採用されてはかなわない。

 第2部と第4部に書かれているように、やはりCSISタスクフォー スでは米国の主要輸出産品である医療機器のシェア(日米合弁)を拡大する狙いのよう。東北経済特区に関する提言。あとは雇用法制の緩和を低減。他にPPP 推進など。やはり細かく復興公共事業への参加を狙っているようですね。CSISは日本の日本医療政策機構(HGPI)と提携して医療関係の低減も行なって いる。米国財界にとって、日本のヘルスケア産業と軍需産業(ともにGEが関わっている)は重要な未開拓市場であるということだろう。「東北地方では30 パーセントの病院インフラが破壊された」という一節があるが、要するに、IT化されたヘルスケア機器をアメリカとしては売り込みたいです、という話だ。お そらく神戸の医療特区のイメージで東北への医療投資を行うと見られる。

 また、第3部のエネルギー戦略。「日本は世界の原子力開発でアク ティブに活動し続けることで、日本は核にかんする高度の安全性、透明性、不拡散経の協力も可能になる」と。原発をアメリカは日本にやめさせるわけがないと いうこと。日米合弁企業だと海外の株主や経営者の意向に左右される。日本の原子力産業は米国の下請けにすぎない。

 また、東北地方を再生 エネルギーのデモンストレーションの場にするべしというスマートコミュニティ、スマートグリッドの提言がある。これは沖縄・ハワイで展開中の「グリーン同 盟」(2010年から)の流れにある。日米同盟の軍事技術的な側面と環境エネルギーの共同開発をリンクさせて沖縄振興策のアメにするのが「グリーン同盟」 であり、ムチである辺野古への普天間基地移設問題とも絡んでくる。トモダチ作戦で東北に米軍が一時進出したことで、「グリーン同盟」は東北に舞台を移 す。(その提言をしていた海兵隊上がりのグレッグソン前国防次官補代理がタスクフォースに参加している)
以上。

CSIS報告書:http://csis.org/program/partnership-recovery-and-stronger-future-task-force-us-japan-cooperation-after-311


ショック・ドクトリン〈上〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く

ナオミ・クライン / 岩波書店






# by japanhandlers2005 | 2011-11-04 19:08 | Trackback | Comments(0)
2011年 10月 28日
ヒラリー待望論の実現に立ちはだかる「民主政治」という制約



アルルの男・ヒロシです。

 今日のニュースは米国の外交戦略を考える上で重要なニュースがいくつかあった。まずはそれらの記事を産経新聞から紹介しよう。

(貼り付け開始)

クリントン長官が候補なら民主党圧勝 世論調査
2011.10.28 09:26

 米誌タイムは27日、来年秋の米大統領選でヒラリー・クリントン国務長官(64)が民主党候補になれば、共和党候補指名争いで優位に立っているロムニー前マサチューセッツ州知事に圧勝するとの世論調査結果を伝えた。

 クリントン氏とロムニー氏のどちらを選ぶかとの問いに、55%がクリントン氏と答え、38%のロムニー氏に17ポイントの大差をつけた。現職で再選を目指すオバマ大統領は、ロムニー氏に3ポイントの差しかつけられなかった。

 前回大統領選の民主党候補指名争いでオバマ氏と激戦を繰り広げたクリントン氏は、再出馬の可能性を否定しているが、同誌は「クリントン氏の方がオバマ氏よりはるかに有力」と指摘した。調査は今月9~10日に実施された。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/111028/amr11102809290002-n1.htm?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter

===

中国、新幹線技術盗用は「国家の意思」 米機関が国有企業の分析報告
2011.10.28 01:33 [中国]

  【ワシントン=古森義久】米国議会の超党派諮問機関「米中経済安保調査委員会」は26日、中国の国有企業の分析報告を発表し、中国の国内総生産(GDP) の50%が国有企業の活動によるという見解を明らかにした。同報告は中国の国有企業群が商業判断よりも共産党や政府の意思を優先させるとみなし、日本の新 幹線技術の盗用も中国側の国家意思だとの判断を示した。

 同報告は、中国がなお国有企業とその子会社に基幹産業や戦略的産業を独占させ、 民間分野の成長にもかかわらずGDPのほぼ半分が国有企業の活動によると総括。国有企業は共産党や国務院の命令で動き、人事も共産党で決められ、企業活動 でも融資や税制、政府調達などの面で優遇されているという。

 その結果、中国経済全体は市場経済ではなく国家資本主義経済、あるいは中国的な社会主義経済であり、中国が世界貿易機関(WTO)加盟の際の「企業は商業判断だけで機能し、国家の意思を入れない」とする自国の誓約にも違反しているという。

 同報告は、国有企業が政府の意思で外国の高度技術を入手するために利用されるとも指摘し、その実例として日本の新幹線技術が中国側に渡った経緯を詳述した。

  まず、日本の新幹線技術の中国側の取得について「中国企業が外国技術を盗用した最もひどい実例」と明記。2004年の中国側の入札に日本の川崎重工業など が応募して、国有企業の「中国南車集団四方機車車両」と提携、中国が日本から新幹線車両を直接輸入する一方、ライセンス生産を進めたプロセスを述べてい る。

 同報告はそのうえで中国側が昨年までに新幹線「はやて」に酷似した高速列車を製造して、「中国の独自技術による」と宣言したことを 技術の盗用とみなし、「中国政府が求める外国の技術を取得する過程では中国の国有企業が決定的な役割を果たす」として、日本の新幹線技術の取得も中国側の 国家や政府の意思だったという見解を明示した。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/111028/amr11102801350000-n1.htm?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
(貼りつけ終わり)

  まず一本目の記事であるが、アメリカではやはり未だにヒラリー待望論が強いということを裏付けるような記事だ。共和党の候補者はおそらくウォール街が支持 する、ミット・ロムニー(写真左)9かテキサス州知事のリック・ペリーに絞られている。ペリー知事は、急遽登場してきた、黒人の共和党員、ケイン候補(米 国では有名なゴッドファーザー・ピザの元オーナーで流通業界やタバコ業界を専門にするロビイストであり自己啓発家)は、「9-9-9」という新しい税制を 訴えている。



 これはケイン候補がもともとレーガン保守革命の立役者であった、ジャッ・ケンプ(すでに死去)の大統領選挙の陣営スタッフを90年代に行ったことから来ている。レーガン政権の経済政策に影響を与えたのは「サプライサイダー派」と言われる、大規模減税派たちである。フラット・タックス(均一税率派)もその勢力の一つであり、税率を同じにするので富裕層減税になるわけだ。

  ケイン候補は、このジャック・ケンプの他、同じくフラット・タックス派のスティーブ・フォーブズ(雑誌『フォーブズ』の発行人である)とも関わりがある が、フォーブズは今回はペリー候補の支援に回っている。今週になって、ペリー候補はケインに対抗して独自の「フラット・タックス」案を打ち出した。しか し、どうも評判が悪い。

(貼り付け開始)

【NewsBrief】米共和党のペリー氏、均等税で保守派取り込みを狙う
2011年 10月 26日 19:53 JST

 2012年米大統領選の共和党候補の1人、リック・ペリー・テキサス州知事は、保守派取り込みを狙って、減税、一律課税、政府規模の大幅縮小を盛り込んだ経済政策を打ち出した。

 この背景には、最近の世論調査でペリー氏の支持率が大きく落ち込む一方で、ライバルの元外食チェーン経営者、ハーマン・ケイン氏が「9-9-9」という一律課税策を武器に人気を高めていることがある。

 ペリー氏の提案の1つは、公的支出をGDP比で毎年18%に抑制するというもの。GDP比24%だった2010年と比較すると、その差額は約8750億ドル(約66兆円)に相当する。だが、この目標達成に向けてどのように公的費用を削減するか具体策は提示しなかった。

 ペリー氏のプランでは納税方法を2種類から選択できる。1つは最高35%の税率で、代わりにさまざまな控除や減免措置が受けられる既存の連邦所得税。もう1つは、ペリー氏が新たに提案している一律20%の均等税だ。

 その他、保守派の長年のゴールも盛り込まれている。法人税の引き下げや、連邦予算均衡を義務付ける憲法修正案の法制化、若年労働層向けの社会保障個人勘定の導入などだ。またキャピタルゲインなどの投資所得への課税や遺産税の廃止も提案している。

 ペリー氏は25日、声明とサウスカロライナ州で行われたイベントで、これらの政策により「あらゆる所得層」を対象に減税を実施し、停滞した経済成長に必要な刺激を与えると約束した。
記者: John D. McKinnon
http://jp.wsj.com/layout/set/print/US/Politics/node_331849
(貼りつけ終わり)

 ペリー候補はレーガン大統領を彷彿とさせる事を狙う選挙運動を行なっているが、それがうまく行っているようには見えない。格差是正が論議になる中で、ペリー・ケインの減税案は受け入れられにくいだろう。

 そうなると共和党はロムニー候補となるが、彼もモルモン教徒出身という弱みがある。ウォール街は今のところ概ねロムニー支持だが、ウォール街とて欧州債務危機の余波を受ける可能性もある。ゴールドマンは第3四半期は上場以来二度目の赤字を記録。

 また、元GS取締役だったインド系アメリカ人のラジャト・グプタ氏が、バフェットのGS出資を巡るインサイダー情報を別のインド系ファンドマネジャーに横流ししたという疑惑で刑事訴追を受けている。元 ゴールドマンのCEOだった、ジョン・コーザインが独立して立ち上げたMFグローバル社はこの金融不況で業績が悪化。株価が急落し、ゴールドマンに業務の 一部を売却するという話も出てきた。ゴールドマン・バンカーが無敵の力を誇ったのも今は昔。今のCEOが刑事訴追されていないだけで、政治的影響力は失わ れている。

 (引用開始)

米MFグローバル株が39%急落、格下げと過去最大の損失で売り (1)

  10月25日(ブルームバーグ):米先物ブローカー、MFグローバル・ホールディングスは7-9月期決算で、同社として過去最大の損失を記録した。これを 受けて同社株は売り込まれ、2008年3月以来の大幅安となった。MFホールディングスの信用格付けは前日、投資適格級で最も低い水準に引き下げられた。

  同社が25日に電子メールで発表したところでは、純損失は1億9160万ドル(約146億円、1株当たり1.16ドル)だった。前年同期の純損失は 9430万ドル(1株当たり59セント)。ブルームバーグのデータによれば、これまでの同社最大の赤字額は09年1-3月期の1億1170万ドルだった。 事業再編や繰り延べ税金資産評価、債務償還のコストを除く損失は1株当たり9セント。ブルームバーグがまとめたアナリスト11人の予想平均は1株当たり5 セントの利益だった。

 ジョン・コーザイン最高経営責任者(CEO)の下、MFグローバルは中堅投資銀行への転換を試みている。元上院議 員でニュージャージー州知事の経験もあるコーザインCEOは、94-99年にかけてゴールドマン・サックス・グループの経営幹部を務めた。MFグローバル の株価は今年8月以降71%下落しており、先物ブローカーをウォール街の主力金融機関に転じようとする同CEOの戦略を市場が評価していないことが示唆さ れた。

 マッコーリー・グループのアナリスト、エド・ディトマイア氏(ニューヨーク在勤)は顧客向けリポートで、「MFの決算は深刻なほ ど予想を下回った」とし、「近い将来、MFの業績予想を低めに調整しなければならない公算は大きい」と解説した。同氏は調整後ベースで1株当たり3セント の利益を予想していた。

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90970900&sid=a3EyjCPUsjPY
(引用終わり)

 ア メリカ国内の金融勢力は弱体化している(故にTPPで巻き返しを図る)が、一方でメディアで発言が多いのが国務省・国防総省といった「戦争経済」グルー プ。最初に紹介した記事の二番目は「米中経済安保調査委員会」という議会の超党派委員会が、中国の国有企業の研究を徹底的に始めたことを報じている。新幹 線技術だけではなく、中国の経済体制は「国家資本主義」であることを強くにじませたもので、その国有企業に対する初めての包括的な報告書といっていいだろ う。

 つまり、前々回のブログ記事で書いたが、TPPを「対中包囲網」の一環として利用する国務省グループと、あくまで規 制改革の問題として推し進めるUSTRや経済系シンクタンクの2つの勢力があり、前者が「国家安全保障問題」という一段上の議論の中にTPPを位置づけて いる。

 TPPに交渉参加している国々は9カ国だが、地図 上でその国の位置を確認すると特に東南アジアの4カ国(シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナム)は中国が勢力を伸ばそうとしている国々となる。ペ ルーにしてもブラジルに近いことを考慮すれば、ある種の「中国牽制」とも見えなくもない。


 この路線に勢いをつけたのは去年8月にハノイでヒラリー・クリントンが行った演説であり、「アジア太平洋へのコミットメント」という形で、中国をソフトに封じ込めていくという意思の表明があったわけだ。米中関係は「ソフト冷戦」状態にある。

 この路線を意識した上でTPPはアメリカの国家“安全保障”戦略という側面と、経済戦略(輸出戦略)という側面を見なければならない。

オバマ大統領は去年の横浜のAPECで次のように発言している。
 
(貼りつけ開始)

「運命を共有」雇用増へアジア重視 オバマ米大統領演説
2010年11月14日1時41分

  「我々は運命を共有している」――。オバマ米大統領は13日の横浜市での演説で、アジア・太平洋地域との経済関係の深化に全力を注ぐ姿勢を示した。「米国 にとって、これは雇用(創出)戦略だ」として、アジアへの輸出拡大を通じて、雇用情勢を改善する考えを前面に掲げた。オバマ氏のアジア重視は、2日の米中 間選挙で歴史的な敗北を喫した苦境の裏返しでもある。

■輸出狙い「内需」促す――「対米輸出、繁栄の道ではない」

 オバマ大統領は13日朝、日本経団連によるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の関連行事「CEOサミット」で演説し、アジアの経済界に輸出増に向けた意欲を直接話した。

  大統領は、米国が今後5年で輸出を倍増させる「国家輸出戦略」を進めていることを説明。「それが、今週アジアを訪れた理由の大きな部分だ。この地域で、輸 出を増やすことに米国は大きな機会を見いだしている」と指摘。中国やインドなどの新興国の存在で、世界経済を引っ張るアジア地域を重視していることを率直 に語った。

 米国がここまで輸出増にこだわるのは、金融危機以降の米経済は、以前のように「米国人の旺盛な消費」に経済のエンジン役を期 待できなくなっているからだ。米国の失業率は9.6%と高水準が続く。米国民は住宅価値の下落に伴う逆資産効果と、借金の返済に苦しんでいる。実質国内総 生産(GDP)は5四半期連続でプラス成長を記録しているものの、GDPの7割を占める個人消費は力強さを欠いたままだ。

 それだけに、オバマ大統領は「今後は、どの国も、米国への輸出が繁栄への道だと、思うべきではない」と訴え、中国や日本などの輸出国に、内需拡大に注力するよう強く促した。危機を招いた世界経済のバランスの悪さを改善すると同時に、中国などの内需が拡大すれば、米国からの輸出が増えるとの期待がにじむ。

http://www.asahi.com/business/topics/economy/TKY201011130402.html
(貼りつけ終わり)

  オバマ大統領が言う、「今後は、どの国も、米国への輸出が繁栄への道だと、思うべきではない」というのは、これまでアメリカ国内に安い産品を輸出してきた中国に対しての警告である。他の国への輸出を増やしたいことは事実だが、経済戦略的には経常赤字を減らすには中国からの輸出を減らすしかない。通商というのは略奪的な側面もあり、「貿易黒字」というのは他国の雇用を奪うことでもある。(これは三橋貴明氏の表現である)



  となると、オバマ大統領はTPPを主張するのは「自由貿易」体制の構築による域内輸出拡大であるが、ヒラリーなど国務省系がいうTPPというのは、自由貿 易ブロックを作ることで、中国に対して圧力をかけ、構造改革を促す路線だ。いわば90年代に行われた「日米構造協議」の対中国版が狙いである。人民元切上 げ圧力をあわせてこれをオバマ政権は切り札にする。なお、日本の経産省の中にもTPPについて、「やりたい放題の中国を自由貿易の枠組みに追い込んでいく ための戦略的手段と考えてる」という意見もあるようだ。

 いわば経済プロパーではない「ハイ・ポリティクス」を専門とする国務省系にとっ ては、このTPPはある種の「布石」。すぐに何かを変える意図はないが、中国に対してじわじわと圧力をかけていく狙いもあるのかもしれない。中国国内の 「開国派」のような勢力にメッセージを送っているのではないか。王岐山や李克強、戴秉国などの穏健派はそのシグナルをうまく受け取っていくだろうが、王岐 山が次の政治局常務委員になれなかったらどうなるか。アメリカは両天秤で考えているのだろう。

 だから、TPPは具体的に何らかの経済利益を実現するという思惑(満額回答)とは別に、とりあえず布石を打つという(60点)の思惑があるように私は思えてならない。


 ヒラリーはそもそも「スマート・パワー」の信奉者である。スマート・パワーとは、経済力と軍事力をリンクさせるというパワーの概念であり、これを打ち出したのが、ジョゼフ・ナイ。ナイはもともとリベラルの論客だったが、今は自ら「リベラル・リアリスト」を自称。リアリスト、すなわち軍事戦略と経済戦略を組み込んだ新戦略を提唱してきた。ヒラリーもこの路線を貫くと国務長官の議会での指名公聴会で話していた。


 そこで最初の話に戻る。オバマ大統領ではなく、ヒラリーがそのような太平洋戦略を打ち出しているのだとしたら、それでは民主党はヒラリーを大統領候補にしてオバマと差し替えればいいのではないかという風に考えたくもなる。

 しかし、これにはハードルが高い。まず、ヒラリーは国務長官であり、副大統領ですらない。副大統領の地位をバイデンと交代するのでもバイデンの同意が必要だし、オバマが納得しない。オバマが暗殺されたり、病気で職務執行不能になる可能性も低い。

 これで参考になるのはロシアである。ロシアはプーチン首相がメドヴェージェフ大統領に成り代わって、次の大統領選挙に出馬することを表明した。プーチンの鶴の一声で物事が決まるのは、ロシアがそういう非民主主義国家だからである。ところがアメリカは世界帝国であるけれども、体制上は民主国家であり、オバマ大統領を取り替えるには、オバマ本人の納得や民主党全国委員会(DNC)の決議が必要だ。さすがにオバマとヒラリーが「予備選」で争うことはない。



 そうなると、オバマ失脚がなければヒラリーは2012年の大統領候補にはならない。万が一、再度米国内で債務危機が発生し、議会がまた大揉めに揉めるなどの今年の8月のような状況があれば別。とりあえず、私はヒラリー派の動きをチェックすることにしたい。

 そうなるとアメリカは「集団指導体制」。世界の政治のリーダーにカリスマがいない。その流れの中にアメリカもあるのかもしれない。

 いずれにせよ、日本は今回はTPPへの参加を見送ったとしても、こういう大きな変化を認識して対応を考えなければならないということだ。国際政治のオーダー(秩序)は米中の関係でいきおい決まっていく。

A Contest for Supremacy: China, America, and the Struggle for Mastery in Asia

Aaron L. Friedberg / W W Norton & Co Inc



When China Rules the World: The End of the Western World and the Birth of a New Global Order

Martin Jacques / Penguin (Non-Classics)

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